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「あなたの追鮎は元気らしいなあ」
「ねえ」
「僕はクレーが済んでから行つたんでね、もう終りで相沢の馬が勝つところだけをちよつと見たよ。――相沢、得意さうだつたぢやないか」
「先生!」
「もう帰つたんかね」
「これはあなたがお乗りになるので――?」
もともと口下手ではあつたが、まだ舌がもつれる風で、一口ごとに息をついて云つた。
「いゝかね。あんたの身体はどこも悪くない」
「やあ。先日はどうも」
さう云ひすてて、大きな音を立てて下駄をひきずりながら立去つたのだ。
「まあ、とにかく、御迷惑かもしれないが、一度御足労を願ひたいと思つてね」
房一は笑つていた。
と、何か威勢よく云ひかけたときだつた。小谷は急に聞耳をたてた。小谷ばかりではない、房一も――半鐘が鳴つていた。たしかに!それは、はじめ三連打を二度ほど、ちよつと途切れ、次には聞えにくいほど鳴り、そして急に勢よくつゞけさまに鳴り出した。ちやうど、それは焔の燃える様子と緩急を合せたやうに、まざまざと目に見せるやうに響いた。